主はある日、突然そんなことを言い出しました。
「こっちでやることもなくなったしさ……同じくらいコンテストが盛んなシンオウで、コンテストに殴りこみ…する実力もないけど」
どこか別の方向を見ながら、ぼんやりと主は言います。
「それに、去年、旅行にも行ったし」
そう。一年前。
少し癪ですが、ウラシマがコンテストで優勝した時の副賞で、わたくしたちはシンオウのリゾートエリアへ旅行に行きました。
その時の滞在期間は一か月。
その間に、わたくしたちも主もたくさんの人たちに出会って、たくさんのことを学びました。
おそらく今回のシンオウ行きも思うところがあって話されたのでしょう。
「サクヤ、あいつらにどうしたいか聞いてきてくれないか?」
「はい、主のためなら」
「できれば…みんな一緒に行きたい」
「かしこまりました。全員一緒ですね!」
「――と、言うわけですわ。もちろん、シンオウへ行きますわよね?」
異論は認めませんわ。
「ユウトがそう言うなら、オレは行くぞ」
「ぼくシンオウ楽しかった!また行きたーい!」
「……マスターが行きたいって、言うなら」
「新天地でも頑張るぜ!」
口々に皆賛成の言葉を述べる中で、一人ソファに座って我関せずといった表情で読書をしてるKYが。
「……あなたももちろん行きますわよね、ド変態」
「…行かない」
本から目を離さないまま、ウラシマは言いました。
「あら、なぜです?あなたなら絶対に行くと言うかと――」
「行かない」
あら、この目は本気で行かないつもりですわね。
「どうして行かないんだー?一緒に行こうじゃないか」
「ウラシマも楽しかったよね?シンオウ!」
「去年こん中で一番楽しんでたのウラシマだったじゃねーか」
「……何か、あったのか…?」
モモの一言にウラシマは一瞬本を読み進める手を止めました。
わたくしがそこを見逃すはずはないでしょう?
「図星ですわね」
「……別に」
俺が行きたくない理由?
それは一冊の本。
キミが面白いって言ってくれた3巻だけ、ずっと読んでて。
セリフももう全部覚えた。
そのかわり、本はもうボロボロだ。
新しいのを買って返さないと。
どうしてこんなことしてるんだろ、俺。
どうして冷静に物事を考えられなくなってるんだろ、俺。
あのちっこいのが電話で喚いてたから、もう彼女はシンオウにいないって頭ではわかってるくせに。
一度、頭を冷やせ。
シンオウに行くデメリットなんて、よく考えれば一つもない。
俺が行きたくないって言ってるのは、単なるわがままだ。
「前言撤回。行くよ、シンオウ」
ぱたん、と本を閉じていつもの余裕ある俺を演じる。
「……そういうことですか」
「人の思考をのぞき見るなんて趣味が悪いな」
「あら、わたくし何も言ってませんけど?」
「まぁいい。そのかわり、だ」
俺は全員を見やって、にやりと笑ってみせる。
「全員シンオウのコンテストに参戦すること」
「「「「はぁっ!?」」」」」「あら」
「こっ…ここここんてすと……!?!?オレは…みんなのために料理を作りたいなー……」
「ん!でも面白そう!ぼく出るー!」
「……あqwせdrftgyふじこ……」
「落ち着けモモ、言葉になってねーぞ」
みんな予想通りの反応をしてなかなか面白い。
「どういう風の吹きまわしですの?」
「前にあいつが『シンオウに行くなら全員コンテストに参加させたい』って言ってたのを聞いてな」
「まぁ、主がそんなことを?ですが、いささかその条件は乱暴すぎませんか?」
「参加するしないは勝手だが、お前らが出ないというなら俺もシンオウへは行かない――サクヤ、あいつは『みんな一緒に行きたい』って言ったんだよな?」
「はい」
「それに対してお前は『かしこまりました』って返した。俺だけがこっちに残ることになったら、お前の信頼はガタ落ちだよなー…?」
「!」
よし…計画通り。
サクヤもあいつ絡みになるとまったく頭が回らないからな。
よくコンテストの賢さ部門でやってけるな。
「あなたたち、絶対にコンテストに参加なさい。異論は認めません!そしてウラシマ、あなたもシンオウに行きましょう。異論は認めません!」
サクヤの声が響き渡る。
デネブが青ざめて、リュウは状況がよくわかってないのかはしゃぎ、モモが途方に暮れ、キンタがそれを慰めている。
これは面白い展開になりそうだ。
今からシンオウ行きが楽しみになってきた。
「では、主に伝えてきますわ」
サクヤはテレポートであいつのところへ向かった。
「主、みんなで一緒に行くことになりましたわ」
「そうか……よかった。ありがとうサクヤ」
「まぁ……!そんな、もったいないお言葉ですわ」
「それで、だ。今すぐ支度をしてくれ。明日にでもホウエンを発とうと思う」
「はい!」
かくして、ユウト率いるおとぎ話パーティはシンオウへ向かうことになった。
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