ある週の金曜日。
ボクはいつもの時間に、いつものようにセンを待っていた。
「おい」
いきなり呼ばれて、ボクは振り返る。
その声は、センじゃなかった。
呼んできたのは、いつも嫌がらせしてくるあいつら。
いつにも増して人数も多いし、なんだか怖い。
「何?」
「お前最近、金曜日に来る変な奴と仲いいじゃねーか。今日はまだ来てねーみてーだけど」
「変な奴って言うな!センはボクの友達だよ!」
「友達ぃ?」
あははは、と、あいつらは笑う。
何がおかしいの?
ボクとセンは、友達、それだけなのに。
「つーかさ、お前見てるとほんとムカつく」
「最近変に反抗しなくなってきたしさー」
「ここいらで仕置きした方がいいんじゃねー?」
向こうは5人、ボクは1人。
さらにボクはもともと非力な種族だ。勝てるわけがない。
っていうか女の子を袋叩きって、女も何人か混じってるけど、男として最っ低だと思わないの?
「待ちなさい!」
「い、嫌だ!」
鬼ごっこが始まった。
鬼ごっこなんて可愛いものじゃないけれど。
ボクの体力が切れるのが先か、あいつらが諦めるのが先か。
そんなことはどうでもよかった。
センが来る前にどうにかしなきゃ、その一心だった。
「あっ……!」
「案外簡単に追いつめられるもんなんだな!」
水辺に追い込まれた。
これがいわゆる、背水の陣ってやつなのかな。
どうしよう、どうしよう。
「な、何よ……!」
口だけで精一杯の抵抗をする。
体は恐怖で動かない。
「じゃーな!」
どん。
思いっきり海の方に押された。
ボクはバランスを崩してしまう。
ばしゃあっ……!
ボクは水中に投げ出された。
「ちょろいもんだぜ、あいつを海に投げ出すくらい」
「さっすがー!」
「僕らは水タイプだけどあいつは電気だもんねー」
「あははは!このまま帰ってこなければいいのにねー」
「さ、帰ろーぜ!」
「――お前ら、クルミを海に落としたの?」
「あ?お前あいつのダチか?」
「そうだよ。で、クルミを海に落としたの?」
「だったら何だよ」
「……許さない……!」
とても強い一陣の風が草むらを吹き抜ける。
「うわぁっ!なんだこの風!」
「強い…!」
「痛いよっ!に、逃げよう!?」
センの風起こしの威力に驚き、わらわらと逃げていくいじめっ子たち。
「クルミを助けなきゃ……!」
センは海に飛び込んだ。
ボク……どうなるんだろう……?
このまま……死んじゃうのかな……?
嫌だな、まだ……死にたくないな……。
……誰?
ボクの手、つかんでくるのは、誰……?
ざばあっ!
「クルミ!しっかりしてクルミ!」
「……セン?」
「遅くなっちゃってごめんね!大丈夫?」
「…うん」
「とにかく上がろう?」
ボクとセンは、海から上がった。
ボクはセンにつかまって、ふわふわと空を飛ぶ。
「あいつらはボクがやっつけたから、もう大丈夫だよ」
「ありがとう…」
「ねぇクルミ」
「何?」
「どうして言ってくれなかったの?毎日嫌がらせ、されてたんでしょ?」
「……これくらい、どうにかなるって思ったから……」
それも事実。
これくらいいつもされてるからどうにかなるって思ってた。
でも、それよりも。
そんなことよりも。
センに迷惑かけて、嫌われる方がずっとずっと嫌だった。
「互いを知るには会話からって、言ったよね?」
「うん」
「こういうことも話してほしかったんだけどなぁ…」
「……センは」
「ん?」
「センは……ボクと一緒にいて、迷惑じゃない?」
ボクはすぐに意地張って、何でも首突っ込んじゃう。
もしそれが、センにとってものすごく迷惑なことだったとしたら?
考えたくはないけれど、もし、いやいや友達やってるとしたら?
「全然迷惑なんかじゃないよ?クルミと一緒にいると楽しいもん!」
「ほんと……?」
「うん、本当だよ!」
「そっか……」
よかった。
そう思ったら、ぎゅっとセンの服を掴んでたボクの手が緩んで。
「!」
「クルミ!」
ボクはまた、海へと真っ逆さま。
安心してすぐ、こんな展開?嘘だよね?
自分のせいとは言え、怖くて怖くて。
海でも、叩きつけられるんだもん。痛いよね。
ざっ。
「あれ……?痛くない……」
ぎゅっとつかんでくるのは、センの腕。
ものすごいスピードで急降下して、ボクを助けてくれたんだ。
「セーフ……。もー……ちゃんとつかまってなきゃダメだよー?」
「ごめん…ほっとしたら手が緩んじゃった」
「じゃ、そろそろ地上に降りるよー」
ボクたちは地上に降りた。
「今日は…その、本当に……ありが、とう」
「どういたしまして!えへへー。それじゃ、来週会おうね!」
「…うん!じゃあね!」
「ばいばーい!」
センはいつものようにふわふわと飛んで帰って行った。
次の週の水曜日。
いきなり風車が止まって、風も吹かなくなった。
それからセンは、来なくなった。
“嬉しいことも楽しいことも、辛いことも悲しいことも、全部分かち合うことができれば、お互い幸せになれる”
互いを知るには会話からって、センは、そう言ったよね?
じゃあ、どうして?
どうして何も言わないで、ボクの前からいなくなっちゃったの?
「ボク、嫌われちゃったのかなぁ……」
いつもいるはずの、看板の前。
キミが来なくなってから、1か月。
ボク、頑張ってるよ?嫌がらせされても、耐えてるよ?
だからまた、ボクとお話、しようよ。
遊びに来てよ。
「きっと、ボクのせいだよね……」
ボクは座り込んで、だれにも悟られないように顔を伏せて。
「初めての、友達、だったのにな……」
あふれる涙を分かち合ってくれる人は、ボクの前には、もういない。
終わり。
おまけ。
ボクが看板の前で泣いていたら、1人のニンゲンの女の子が、やたら食いしん坊な小さなサルを連れて草むらに入って行った。
「セイテン、ひっかく!」
かっこいい、ボクは純粋にそう思った。
「ちょっと待て、このトレーナー相当強いぞ!」
わらわらと他のみんなが逃げていく。
「……キミ」
み、見つかった……!!
どうしよう、ボク逃げ足速いわけじゃないよ…!
「どうして泣いてるの……?これで涙、拭いて」
「お前、これ食え!元気出るぞー!あ、お前の名前、なんてーの?」
「く、クルミ……」
こうして、ボクとマスターは出会ったんだ。
はいー、完結しました。どうもありがとうございます!
リスと風船の物語。
読んでてわかると思いますが、センがいなくなったのはパチ子のせいじゃないです。
素敵ファッションのあいつらです。
だって、友達だもん!って言ってたやつがいきなり来なくなるなんて、あり得ませんしね。
パチ子が自分から落ちちゃったので、高いところから降りられないのは自業自得ですwwwwww
物語的にカットしすぎて文章繋がってないので書き直したいです。
書きなおしたのをサイトにあげようかな……。
たまたま金曜日にパチ子に出会った&素敵ファッション追い払ったのでネタになりました。
一週間後にちゃんとセンは来たんだけど、パチ子はもうマスターと旅を始めてるのでいないんです。
それからすれ違いー。
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