センと出会って、次の金曜日。
あたしは、本当は待つ気なんてなかったんだけど、何か気になって看板の前で待っていた。
「クルミー、おはよー!」
遠くからふわふわと風に乗って、センがやってきた。
いいなぁ、空飛べるって。
「おっ、おはよう……っ」
緊張して声が裏がえる。
初めてできた、友達だもの。対応の仕方がわかんない。
だけど、嫌われたらすんごく嫌だと思うし、最初のつかみは大事っていうし。
「そんなに硬くなんなくっても大丈夫だよー?まだ会ってすぐだけど、ボクたち友達じゃない?」
「う、うん……」
「じゃ、今日は何して遊ぶー?」
「……地面つついて遊ぶ」
あたしは一人遊びしか知らない。
地面つついていろいろ出てくるのが面白い。
けど、センはそんなの無視して。
「うーん……地面に向かってないでボクとお話しよっ!」
「人の意見聞く気ないでしょあんた」
「互いを知るにはまず会話からだよ!」
センはにっこり笑ってあたしを見る。
その笑顔にあたしは惹きつけられて。
よくわからないけど、ほっとしてしまって。
反論する気も、なくなってしまって。
「……仕方ないなぁ。でもあたし何にも話すこと無いよ?」
あたしはその場に座った。
センもあたしの隣に座りこむ。
「それでもいいんだよ。話すことが大切なんだよ!」
「何で?」
「嬉しいことも楽しいことも、辛いことも悲しいことも分かち合えれば、お互い幸せになれるんだって!おじいちゃんが言ってたよ」
「ふーん……」
「じゃあクルミ、昨日何してた?」
「昨日は……草むら見てたら四つ葉のクローバー見つけた!」
「へぇー!すごいすごーい!」
「センは昨日何してたの?」
「うーんとね、ボクは……」
そんな他愛のない会話をして時間は過ぎていった。
朝に会って、ずっと話をしていたらすっかり日が傾いていた。
「あ!もうこんな時間!帰んなきゃ……」
センは少しがっかりした表情で言った。
「時間が経つのって早いんだね」
「そうだねー。それじゃ、また来週の金曜日に会おうね!今日は本当に楽しかったよー!またねー」
「うん、またね」
いつもいつも、早く一日が終わればいいのにって思ってたのに。
もう少し時間がゆっくり流れればいいのにって思ったのは、初めてだった。
それから何回か、あたしとセンは金曜日に会って話をして。
仲良く遊んだりもした。
他人と一緒にいるのがこんなに楽しいことだったんだ。
もっと早く知っておけば、よかったのかな。
「クルミおはよー!」
「おはよう、セン」
「……」
「な、何?どうしたの?」
センは無言であたしを睨みつけてきた。
何か悪いことでも、しちゃった、かな?
そう考えてたらセンはにっこり笑って。
「ほぉーら表情が硬いよー!笑顔笑顔!」
むにー、とあたしのほっぺを引っ張ってきた。
「い、痛い痛い!」
「あ、ごめん」
ぱっとほっぺから手を離して、センは苦笑いする。
その光景が、何かおかしくて。
思わず笑みがこぼれた。
「なぁーんだ、クルミ、笑えるじゃない」
「……?」
「出会ってからずーっと、ぶすーっとした顔してたもん」
「そ、そんなに…?」
「クルミ、笑ってた方がずーっと可愛いじゃん!もったいない」
「かっ…かわっ……!?」
「あははクルミってば、顔真っ赤ー!」
「うっ…うるさい!ボク可愛くなんかないもん!」
……あれ?
「ボクの口調まで移ってるー!」
「あぁ!もう!からかうのも大概にしなさいよねー!」
「わー!にっげろー!」
走るセンをボクは追いかける。
いつもあいつらに追いかけられてたのとは違う、何か楽しいこの感じ。
こんな日がいつまでも続けば、
金曜日まであいつらのからかいに耐え続ければ、
ここに居てもずっと楽しいのになって、思ったんだ。
続く。
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