「今日は…雨」
私がそう言うと、雨が降る。
「今日は…晴れ」
私がそう言うと、雲ひとつない晴天になる。
「これからこの国は……」
私が鏡を見ると
「……崩壊する……」
未来が見える――。
―遥かなる記憶・1―
周りを見ても、宙を浮くのは私だけ。
他のみんなはしっかりと地に足をついて、自分の足で歩いている。
私が踏みしめるのは、空気だけ。
「おい、あそこだ!」
声がする。
「誰かあそこの宙に浮いているのを捕まえろ!」
あぁ、またか。
あの冠は王宮に仕える者の証。
もうこのやり取りを聞くのも慣れたものだ。
選択肢はただ一つ。
逃げる。
私は水辺に向かって宙をかけ出した。
ふと足元を見ると、石。
地に足が着いていれば、気をつけないと躓いてしまうだろう。
けれど、私にはそんなこと関係ない。
浮いている限り、躓くことはないのだ。
そう思っていることが既におごりで。
「!」
何もないところで躓いた。
宙に浮いた体がさらに浮いて、バランスが取れない。
――転ぶ。
未来を予知するとか、そういう次元ではなく、そう思った。
これから私は転んで、地に初めて触れることになる。
そう、思っていたのに。
「いくら宙に浮いているとはいえ、しっかり足元を見ないから…」
転びそうになった体は何かに止められる。
「……!」
頭には、冠。王宮の者。
予見できない、未来。
初めてだった。
「やっと、捕まえましたよ」
鏡に映ったこの者を見ても、未来が見えない。
「私と一緒に、来てくださいますか?」
だが、そのやわらかな表情を見て、今まで恐怖の対象としか見ていなかった王宮の者が、このときばかりは怖くなどなかった。
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