「フランソワ、朝ごはんだよ」
少年はそう言って一匹のムックルを呼び出す。
フランソワと呼ばれたムックルはばさばさとリビングを旋回し、ポフィンを食べ始めた。
「いただきます」
少年も椅子に座って朝食を食べ始める。
今日の朝食は目玉焼きとハニートースト。
パンの焼けるいいにおいが部屋中に広がる。
彼の両親は、多忙のためしょっちゅう家を空ける。
父はレストラン七つ星のシェフで朝から仕込み、母は一流のコーディネーターだったがバイオリニストに転身、世界中を回っている。
そんな二人の一人息子である少年・ツバキは、ムックルのフランソワとともに毎日を暮らしていた。
『今日の特集は、全国でも有名なポケモンブリーダーであるユリさんです』
『ユリさんはブリーダーになられてからわずか一年なのですが、全国から問い合わせが殺到するほど大人気のブリーダーで――』
テレビをつけると、特集が組まれていた。
ツバキはトーストをかじるのをやめ、テレビにくぎ付けになる。
「僕と年、ほとんど違わないんだ…」
世の中にはすごい人もいるものだ、と思いつつ、トーストをかじる。
「それにしても綺麗な人だな、フランソワもそう思うだろ?…っていたたっ!わかったよ、ちゃんとご飯食べるから」
フランソワにばしばしと翼で打たれつつ、ツバキはトーストをかじる。
テレビの向こうでは、ブリーダーの少女が無表情で話をしている。
『最近は育てるのが本当に楽しくて…でも、いつかは誰かに渡さないとって思うと、ちょっと寂しいですね』
テレビに映るのは、ラルトスとデルビル。
話によると、すでに引き取ってから一年経っているのだという。
『この子たちは特に思い入れが強くて……なかなか手放せなくて。でもちょっと二匹とも問題児かな?なんて』
この子たちは、私が任せられるって思った人に託そうと思います――彼女はそう言った。
「――トレーナーも悪くはないかもしれない」
ぽつりと、ツバキはつぶやいた。
「僕ならあの二匹をうまく育てられる」
根拠のない自信をもって、ツバキは言う。
ツバキはトレーナーでもなければコーディネーターでもブリーダーでもない、ただの一般人である。
「その前に、彼女に会って…一緒にお茶でも飲んで話をしたいな」
彼の目的は二匹を引き取ることではないようであった。
「さて、どうやって彼女に会おうか……」
紅茶を飲みながら、ツバキは考え始めた――。
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