琵琶が鳴りやむ。
あちらの世界の番人・フルートは、目の前に現れた少女をちらりと見やる。
「どうして泣いてるです?」
「……」
少女の問いに答えることなく、フルートは再び霊魂を送るために琵琶を弾き始めた。
魂の声が、聞こえる。
――痛いよ、苦しいよ――
――やめて、まだ行きたくないの――
辛くて目を背けたい。
しかし、この声を聞くことが彼に課された枷。
「だーからー!どうして泣いてるです?って聞いてるです!」
「!」
少女はいきなり手でフルートの目を隠した。
琵琶を弾く手が止まる。
「…誰?」
「ミーはレイです。あっちのお花畑にいるです。花を運ぶためにここに来たです」
「……それで?」
「どうして泣いてるです?これで涙を拭くです」
レイと名乗った少女は、持っていた花の中でもひときわ大きいグラシデアの花弁を一枚取ってフルートに渡した。
「…これで涙は拭けない」
「ミーが拭けると言ったら拭けるです!拭くです!」
フルートの手から花弁を取り、ごしごしと拭ってやった。
「……痛い」
「それで、どうして泣いてるです?」
「……」
フルートは答えるべきか迷い、口を開く。
「魂の声が、聞こえる」
「魂の声、ですか?」
「…君には聞こえるわけないと思うけど、悲しみの声が」
そう言って、べん、と琵琶を鳴らす。
フルートの頬に、つ、と一筋の涙が伝う。
レイはきょとんとしてフルートを見ていた。
しばらくして、レイはフルートの隣に座る。
「……誰も悲しんでなんかないです」
「……?」
フルートは演奏をやめ、レイを見る。
するとレイはにっこりと笑って、
「みんなみんな、感謝してるです」
悪びれもなく言った。
「感謝なんて、してない…」
「送ってくれてありがとう、って言ってるです。だから、泣く必要ないです」
レイはフルートの頬に触れ、グラシデアの花弁で涙を拭いてやった。
そして、唇で涙の跡に触れ、微笑む。
「ミーに感謝するです!」
「……あの」
「あ!こんなところで寄り道してる暇はないです!置いてかれるです!バイバイですー」
たたっ、とレイは走って行ってしまった。
「……」
静けさが戻る洞窟。
琵琶の音だけが、鳴り響く――。
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