「マヤ!まーや!」
「……え?」
エミューが私の顔を覗き込んできた。
「どしたの?アイス溶けてるよー?ねー」「ねー。マヤおかしいねー?」
「え、あ…ほんとだ…」
口に入れかけたバニラバーが、ずっと口に入ることなく溶けて手袋に染みていた。
私、ぼぅっとしてたみたい。
アイスを一口入れて、ぼんやりした頭を覚ます。
「何かあった?」「あったー?」
「う、ううん。何も……」
「あったって顔してるよー?ねー」「うんうん。浮かない顔してるー」
私、そんな顔してたんだ。
そっか…。エミューに悪いことしちゃったかな。
ぱく、と一口、アイスを口へ。
「ほんと、大丈夫だから…気にしないで」
「そっかー。だけど、一人で悩んでちゃダメだよ?ねっ!」「ねっ!」
「別に、何でもないよ。ところでエミュー、私に何か用があったんじゃないの?」
「あ、そうそう!今から出かけるって!行く?まぁ聞くまでもないか、行くよね?」
聞くまでもない…ってことは、あぁ。
会いに行くんだ。
――結局マヤって、誰がすきなの?――
――え?――
――だって昨日…――
今朝のトワとの会話が思い出されて、頭をふるふる振って忘れようとする。
溶けたアイスの最後の一口を入れて、口を開く。
「私…今日は行かないかな。ごめんね」
「あれ、珍しい」「めずらしー」
私が謝らなきゃいけないのは確かだけど、その時の記憶が全然ないんだもの。
わからないのに謝ったって誠実さは伝わらないと思う。
だけどもし、謝ったとして…私のことが嫌いになってたら、たたかれちゃうのかな。
大好きなのは……君だけなのに。
こんなことで仲たがいなんて…嫌だな。
「……っ」
「わわっ!マヤ、どうしたの!?大丈夫!?」
「…っく……っ…うぅ……」
「マヤー、泣かないでー?」
「……っ…ごめ…なさ……っ……」
ここで謝ったってあなたに届くはずはないけれど。
「…ごめんなさい……っ」
許してもらおうなんて、最初から思ってないけれど。
「……っ…」
私が目の前で泣いてしまって、あなたを困らせたくないから。
もう少しちゃんとものを言える性格だったらよかったのに、私はそうじゃないから。
大好きって言えなくて、あなたを不安にさせてるのはわかってる。
本当はとっても大好きなのに、そう言えなくて。
ごめんなさいはありがとう。
笑顔で返すのはうれしいから。
これが私の精一杯。
もしかして、私のこと苦手なのかな、本当は。
やさしいけど、腫れものにでも触るかのような感じの手。
一つ一つ丁寧に選んで言葉を紡ぐ口。
それでも、私に付き合ってくれる。
彼の優しさに甘えてるのかもしれない。
もう少し、勇気が必要なのかもしれないな。
「マヤ、大丈夫ー?」
「……うん、大丈夫…ありがと、エミュー」
「いえいえ!じゃ、マヤは今日はお留守番?」
「…うん。ちょっと行きたい所があるから」
「そっかー。じゃ、あたしはひとっ跳びしてくるよー」
「いってらっしゃい」
会えないならば、いちばん近い人に相談すればいいじゃない。
いつまでもうじうじしてたら、だめだもの。
仲直りの解決法を聞きに。
腫れた目を軽く冷やして、
「もしもし、あ、あの――」
黒い帽子の人に、コールした。
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